長井 進之介:
ウィーン・フィルの魅力はどこにあると思われますか?
ダニエル・ フロシャウアー:
「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、卓越性を追求するユニークな音楽家の集団です。ステージで演奏すると、特にそれが強く感じられます。全員で力を合わせていることがわかるのです。私にとって、これは仕事ではなく天職であり、ウィーン・フィルの一部になれることは大きな贈り物です。また、このコミュニティの一員であることを誇りに思っています」
長井 進之介:
ウィーン・フィルは定期演奏会のほか、様々な音楽祭やイベントで演奏を行っており、多様なプログラムを聴かせて下さいますが、それぞれのプログラムについてはどのような意図で組んでいるのでしょうか?
ダニエル・ フロシャウアー:
「ニューイヤー・コンサートは、クラシック音楽界最大の "イベント "と言っても過言ではありません。このコンサートのプログラムでは豊かなウィーン音楽の伝統にこだわり、ワルツ、ポルカ、マーチなど、“シュトラウス王朝”(シュトラウス一家)の輝かしいレパートリーを紹介します。また、この時代の多様な音楽にも光を当て、ヨーゼフ・ランナー、カール・ミヒャエル・ツィーラー、ヨーゼフ・ヘルメスベルガーといった作曲家の作品もプログラムに加えています」
長井 進之介:
そのほかのコンサートではいかがですか?
ダニエル・ フロシャウアー:
「シェーンブルン宮殿の庭園で開催するサマーナイト・コンサートでは、プログラムの構成はもっと自由です。さまざまなジャンルや時代の作品に目を向けることができます。例えば、映画音楽なども演奏します。EBU(欧州放送連合)の大規模なコンサートでは、コンサートが行われる会場や空間にも注意を払います。例えば、9月18日にはバルセロナのサグラダ・ファミリアで、クリスティアン・ティーレマンの指揮でブルックナーの交響曲第4番を演奏しました。アントニ・ガウディによる堂々とした建築物とブルックナーの作品は、19世紀末の同時期に制作されたものです。この点も、今回のコンサートを忘れられないものにしました」
長井 進之介:
ウィーン・フィルの歴史において、特に心に残る素晴らしいできごとやコンサートはありますか?
ダニエル・ フロシャウアー:
「毎回、ニューイヤー・コンサートは特別な挑戦ですが、特に記憶に残っているのが、2021年、前回のニューイヤー・コンサートです。私たちは、お客様が楽友協会の『黄金の間』でコンサートを体験できるように、最後の瞬間まで戦ってきました。しかし、パンデミックの影響でそれは叶わず、初めて無観客の黄金の間で演奏しました。私たち全員にとって、これはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の歴史においても忘れがたいユニークな瞬間でした。この特別なコンサートを指揮してくれたのは、50年前から芸術面で密接な関係にあるリッカルド・ムーティで、とても感謝しています。彼にとっては6回目のニューイヤー・コンサートでした」
長井 進之介:
それでは困難だったこと、それをどのように乗り越えてきたかを教えてください。
ダニエル・ フロシャウアー:
「振り返ってみると、この1年半はパンデミックの影響で、我々オーケストラにとって非常に厳しいものだったと言わざるを得ません。しかし、私たちはパンデミックの発生当初から、前向きな姿勢で様々な挑戦を行い、先駆的な役割を果たそうとしてきました。私たちは最初にロックダウンが行われた後のウィーンで、2020年6月初旬という早い時期に、お客様前でコンサートをすることが許された世界で最初のオーケストラです。日本との特別な関係は、2020年のパンデミックの年にも、厳重なセキュリティ対策と検疫のもとで日本ツアーを開催できたことにも表れています」